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名古屋高等裁判所 昭和25年(う)357号 判決

被告人

瀧一夫事

権春源

外二名

主文

本件各控訴を棄却する。

当審に於ける訴訟費用中被告人権春源、同李晃の各国選弁護人に支給した分は夫々同被告人等の各自負担とする。

理由

弁護人永井正恒の控訴趣意第二点について。

所論の権春源の檢事に対する供述調書は、刑事訴訟法第三二一條第一項第二号を適用してその証拠調をしたものである事は所論の通りである、而して右調書は、権春源が本件につき起訴せられた後特に自ら申出で檢事の面前で爲した供述を録取したもので、刑事訴訟法第三二一條第一項第二号但し書にいわゆる「特に信用すべき特別の情況の存する」ものなることはその供述の内容に徴し明白である。而もその供述の任意性についても原審は之を確めている(第四回公判調書、記録第六二丁)のであつて、斯の如くその証拠能力の存することが記録上明白である以上更にその証拠能力の存否の点につき判文上説示することを要しない。故に原判決に於て右供述調書の記載を証拠として採用するに当り「特別事情の存在を説明」しないことは何等違法ではない。論旨は理由がない

(弁護人永井正恒の控訴趣意第二点)

原判決は共同被告人権春源の昭和二十五年一月十八日檢事に対する供述調書を証拠として採用したが原審に於て被告人の弁護人は右供述調書の証拠調請求には不同意であつた(第四回公判調書御参照)にも拘はらず刑事訴訟法第三百二十一條第二号の適用ありとして採用したのである、然し右法條によれば明かに但書に於て公判準備又は公判期日に於ける供述よりも前の供述を信用すべき特別の状況の存する時に限るとあつて採用するに当つては前の供述を信用すべき特別事情の存在を説明しなければならないと信ずる。蓋し第三者の公判廷外の供述は被告人の不同意の場合には原則として証拠に採用せしめない事は法律の精神であり例外として特別事情の存在する時に限り之れを証拠とすることを認めたのであつて若し裁判官の自由裁量によつて採証し得るとするならば証拠調の請求に対する被告人の同意権に関する規定は空文に帰するからである、然るに原判決が特別事情の存在を説明するところなく前記供述書を証拠として採用したのは違法である。

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